偽島、ENo.2128(星のスピカ_リボン屋)です。主にラクガキしたレンタルなどの倉庫となります。レンタル元より許可の下りなかった物は、全てフィクションです。煮ても焼いてもいいし、なかったことにしてもいい。
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(幕間・開始)
「星の舞踏会へようこそ!」
少女の高く透き通った声が会場全体に響き渡ります。
少女と、会場の周りを取り囲むように配置された大人たちが
星の杖を天に向けて掲げると夜闇と星々が瞬く間に天を彩り
ありとあらゆる色とりどりのドレスの裾が目の前に翻りました。
ヴァイオリンの弦が鳴り、舞踏会の最初の一音が鳴り響くと
次々と音の洪水が広がります。
美しい王宮で開催される、楽しい舞踏会の始まりでした。
子供は王宮つきの魔法使いを両親に持つ、魔法使いの卵でした。
星の魔法使いは夜空に関する美しい幻術を得意とし
幻術を広げることでその領域を守護する力を持っていました。
その日は子供の晴れ舞台となったのです。
それはとても幸せな、大切な思い出として子供の記憶に残りました。
* * * *
子供の初の晴れ舞台の後、子供と母親と父親が一緒に家に帰ると
ねこが足元に擦り寄りました。それは子供の一番の友達でした。
子供はベッドに寝転がって、ねこに色々なことを話しました。
キラキラと広がる星空や、ヴァイオリン、キラキラしたドレス。
男性の肩越しに見える淑女の微笑った顔。
「いつか私も踊れたらいいな。
大きくなったらパパがドレスを買ってくれるって!」
ねこはニャーオ、と一声鳴いて、
子供の話を聞きました。
別に話の半分もわからなくても良かったのです。
ドレスって食べ物なんだろうかとか、ヴァイオリンは嫌いだとか、
そんなことはどうでもよかった。
子供の小さな手は温かく、
頭を撫でられると、とても幸せな気分になれたのですから。
* * * *
子供の。
子供の瞳に映る世界は、色鮮やかで、とても小さい箱庭です。
子供の心は一途です。
何かを大事なことを願ったら、そればかりを考えます。
ですから、子供は死んでしまうと、
その魂は悪いものになりやすいのです。
ねこの瞳に移る世界は灰色ですが、やはり小さい箱庭です。
ねこの心は一途です。
何かを大事なことを願ったら、そればかりを考えます。
その点で、ねこは子供と似ているといえるでしょう。
そして、ねこはその子が大好きでした。
* * * *
ねこはぬいぐるみをくわえておうちに帰りました。
自分を模したぬいぐるみを、山をひとつ越えた場所にすむ
あの子のおばあちゃんに作ってもらったのでした。
父親が、ねこに取りに行くように頼んだのです。
誕生日は2週間後でした。
あの子はねこが大好きだったので、
凄く凄く喜んでくれるだろう、と思いました。
ねこはそれを想像するだけで、ぴょんぴょん跳ねて喜びたいほど幸せでした。
しっぽはぴーんと一本で立ち、
柔らかな手足は大地を踏みしめて、
ぐんぐん道を進みます。
* * * *
しかし帰ったとき、
その子はもういませんでした。
ねこがいないところで、
ずっと、ずっと、
永いお別れをした後だったのです。
* * * *
その子はベッドで眠っていました。
白かった肌はところどころに黒い痣が出来、
冬の寒さに赤かった丸い頬にも血の気はありませんでした。
その子のお母さんも同じです。
少女と母親は黒死病で死んでしまったのです。
* * * *
死んでしまったその子は幽霊になりました。
そして毎日泣きました。
父親の傍で泣きました。
こんこんと眠る、同じ病の父親が、起きてくれるよう望みました。
ねこは幽霊になった子供をずっと見ていました。
そして、一緒に泣きました。
涙がみっともなく頬の毛皮をぬらすことなどかまわずに。
あんなに幸せで大好きだったあの子が、
悪いものになってしまうんじゃないか、
不安で不安で泣きました。
3日が経ちました。
子供は泣いています。
1週間が経ちました。
子供は泣いていました。
10日が経ちました。
泣きっぱなしの子供を見かね、
ねこは神様に会いに行きました。
* * * *
山羊の角を持つ神様は、静かにねこの話を聞きました。
そして哀れみました。子供ではなく、ねこを。
「その子は、空の星になったのだ。
だからお前はお前が幸せに生きることができるように、
生きなさい。」
ねこは聞きませんでした。
「お星様になんか、なっていません。
ずっと眠るパパの傍で泣いています。
あれじゃ、あの子は悪いものになってしまう。」
神様は、言いました。
「すでに起きた全ての物事は、運命づけられ、起きている。
過去を変えることはできない。」
ねこは聞きません。
「過去を変えようとは思いません。死んだものは帰らない。
ぼくの父母がそうだったように。
でもこれからの未来を変えることはできる。」
「神様。
なにをあなたにささげれば
ぼくは彼女になれますか。
彼女になれば、王様のところへ薬を取りにいけるのです。」
神様は、瞼を閉じて応えます。
「ねことしての命、ねことしての生、ねことして彼女と話せるその力。」
「…お前にとっては最後のひとつがもっとも苦痛だろう。」
「かまいません。
あの子が悪いものになってしまうより、ずっといい。
ぼくがあの子の願いを代わりに叶えれば
あの子は眠れるんでしょう。」
「ねこはねことして生きるのが世の理。
何がそこまでお前をかりたてる。」
神様は、ねこの
まっすぐさと必死さとけなげさに、呆れ、あわれになりました。
「あの子はぼくのすべてです。
あの子がいなければぼくはぼくではなかったでしょう。
人には慣れなかったかもしれません。
死んでいたかもしれません。
だからこそ、ぼくはぼくのすべてのために
あの子の願いを叶えたい。」
「仕方のない子だ。
そんなに言うならあの子のあるはずだった寿命を、
お前に乗せてあげようね。
姿形もそっくりあの子に似せてあげよう。
あの子の思い出もそのままに。」
「でもただひとつ、****だけはかえられないよ。
お前はXXXXXなんだから。」
山羊の角の「神様」は、契約書を書きました。
古い、古い、羊皮紙に血と墨で練ったインクでサインをしたのです。
神様の名と、ねこの名を。
「鏡をごらん。」
ねこは言われるままにそうしました。
金色の髪、白い肌。
紅潮した頬に夜空のように蒼い瞳。
大好きなあの子の姿でした。
神様は子供の頬を伝う涙をぬぐいます。
「お前が笑うとスピカは笑う。
だから、なるべく、笑顔でいなさい。」
ねこが人の顔で初めて作った笑顔は、泣き笑いでした。
* * * *
ねこは王様に薬を貰い、スピカの父親は助かりました。
しかし、目を覚ました父親は自分の娘の顔が分かりませんでした。
また、立つのもやっとというほどに、衰弱し、
彼の記憶と能力の大部分は欠落していたのでした。
ねこは言い出せませんでした。
アルデバランの娘、スピカはもう死んだのだと。
自分はあなたのねこなのだと。
そして怖くなりました。
アルデバランがスピカの死を知ることが。
大事な人が自分のせいで悲しむことを知ったら
果たしてスピカはどう思うのか。
* * * *
ねこはアルデバランの手を引いて、逃げました。
思い出から、街から、あの子を知られてしまう全てから。
それでもスピカの姿や思い出を捨てられなかったのは
ねこが大好きなあの子を忘れたくなかったからでしょう。
* * * *
ねこは彼女の中から彼女の瞳で世界を見ました。
すべてがきらきらと輝いて見えました。
ひとつだけ変えられなかった**だという事実をひた隠しにして
スピカのリボンも、夢も、スピカの笑顔も一緒に着込みます。
チケットの要らない船に乗り、不思議な島につきました。
アルデバランを助けるため、自分の身体を動かすために、
他の生き物から掠めた命、キラキラとした星屑を集めます。
そして、ねこは今日もスピカの大事なその人と一緒に旅を続けるのでした。
(幕間・終了)
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