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偽島、ENo.2128(星のスピカ_リボン屋)です。主にラクガキしたレンタルなどの倉庫となります。レンタル元より許可の下りなかった物は、全てフィクションです。煮ても焼いてもいいし、なかったことにしてもいい。
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アルデバランの話。

(開幕)

ALDEBARAN

その日は久々の快晴で夜には星がよく見えた。
影となっている間は常に混濁している俺の意識もはっきりしていて、人の形も保つことができた。
こどもが連れてきた仲間は既に眠りについている。
こどもも一度は眠ったが、起きだしたようで、寝ないと言って聞かなかったので、偶には、と話をした。


「スピカ、か。良い名だな。
 乙女が持つ穂の先、豊穣を示す星だ。」

「娘が生まれれば付けようと思っていた。」

別に他意は何もなかった。
こどもは褒めればそれはもう常に単純に喜ぶものだから、
いつもどおり喜ぶものだろうと思ったのだが。
それはこどもらしくない静かな表情で振り向いた。

「私が本当にアルデバランのこどもだったら良かったのにね!」

そう言った後の笑顔は多分、いつものあの子の顔だったと、思う。


* * * *


思い返せば、自分の記憶は20代前後で止っている。
しかし自分の肉体年齢を考えればそれから10年は経っているのだろう。
何かの病のかかったらしく、身体が思うように動かない。
目を覚ました時には傍にいる子供が傍に居たように思うのだが
子供に聞いても知らないと言う。意識は常に混濁していて定かではない。
誰かの手で助けられたことは確かだが、誰が俺を助けたのかすらも
正確に覚えていないのだ。

子供を見ていると頭の片隅に何かが引っかかっているような
感覚はあるのに、思い出せない。
思うのは、深い悲しみ、子供が安らかに眠ってくれればいいというわけのわからない感情だけだった。
それが何からくる悲しみなのか、悔いであるのか。
わからないので、どうしようもない。
また、それを話せる相手も居ない。


子供に一度、お前は俺の何なのかと尋ねたことがある。
偶然会ったから一緒に居るのだと言った。
母親はもう居ないため、父親を探しているとも。
懸命に言い連ねる言葉には子供らしい必死さと嘘が見え隠れしたが
追求はしなかった。
追求したところでこの小さなこどもにどれだけ正確な情報を求められるか不明だったからだ。


この子には自分の影がない。
星の魔法使いの中でも影を持たないものは少ない。
恐らくこの子は何かのわけありなのだろう。


星の魔法使いは、星屑をあつめる必要がある。

人間たちが生きる為に食物や空気を必要とするように、
我々が呼吸をし、手足を動かす為には星屑が必要だ。

星屑を多く失えば、影となり、星空の夜以外に具現化できなくなる。…俺のように。
星屑は身体的な損傷や精神的なショックでも多く失われる場合がある。
俺の場合は、病のせいなのだろう。
同属のよしみか、こどもは俺の為に熱心に星屑を集めた。



 


 



冬が過ぎると春の星座が昇るようになった。
東の国では真珠星、と呼ばれる青白い一等星…”スピカ”も長い冬を終えて昇るようになっていた。
自分と同じ名前の星を眺めるこどもは黙っていると寂しそうに見える。
探す父親のことでも考えているのか。
こどもの寂しそうな顔は苦手だ。


「最近、楽しかったことは。」

こどもの顔がぱっと変わって楽しそうに笑う。

「大好きなお友達と一緒に遊んだことなのよ!
 リボンが好きで、可愛いものが大好きで、
 ねこもだーい好きだったのだわ!」

「スピカと一緒か。」

この子の同年代のこどもを想像してみる。
なぜか、真っ先に赤いリボンをつけたねこの姿が思い浮かんで
その考えに首を傾げた。


「そうだよ!誕生日にね、ねこのぬいぐるみをね、あげる約束をしたの!
 私がとりにいったのよ!」

「よほど、仲が良かったのだな。
 その子も嬉しかっただろう。」

「うん。きっとね!
 …アルデバランも早く人間に戻れるといいのに!
 楽しいことが一杯あるのだわ!」

「そうだな。
 身体の調子も戻らん。
 こうやって言葉を発することでさえ、星の出る夜でなければ難しい。
 日中はお前の影に隠れているしか術がない。」

「記憶がない以上、どこに帰るとも言えない。
 俺に、大事なものがあったとは思えない。
 多分、お前たちを守っていれば良いのだろう。今は。」

このどうしようもない喪失感を考えれば、もしくは。
恐らく。

何かを失ったのだ。

そこまで考えはたどり着くのにその何かが分からない。


このこどものような気もするのだが、
ならばこの子が今ここで息をしている
理由の説明がつかなかった。

とにもかくにも、こどもの存在は慰めになった。
こどもはよく笑う。よく騒ぐ。日々はめまぐるしく回る。
じっとりと失った記憶と感情に向き合う時間を忘れることができる。
そして、こどもを守るという存在意義ができる。

「アルデバランが悲しくなったら、傍に居るのよ。
 わんわん泣いてもいいんだよ!」

俺の落ち込んだ空気を読み取ったのだろう。
しかし子供の発言は突拍子もないし、飛躍しすぎている。

「…大の大人は大泣きなどしないものだ。」

「だってニンゲンは泣き虫だもの!」

その笑顔に懐かしさを感じるのは、なぜなのか。



* * * *


「……、夜が明ける。」
山の端から朝日の光が滲み出す。
光の当たる腕の先から身体が薄れ、
薄れた身体は大地に引かれるように、影となり、こどもの影に落ちていく。

「何かあったらすぐに呼べ。」

その一言を残し、身体は朽ちて影となった。



「……ぼ…がス……のこ…、覚……る…ら。」


影の中では夢現のように意識が朦朧としていて、
物事を筋道立てて考えることができない。
こどもの声が光と影にくぐもって聞こえた気がしたが、混濁した記憶は闇に飲まれてしまった。
次に召喚される時は恐らく覚えていないのだろう。







* * * *



























少女の姿をしたねこは、多分もう意識がないであろう、
影に向かって呟いた。





「ぼくが、スピカのこと、覚えてるから。」








「悲しくて、
 寂しくて、
 ぼくみたいな気持ちになるくらいなら、
 アルデバランは、
 思い出さなくて、いい。」



















(閉幕)
 

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